Written by まろにー

藤崎健太郎 刺青写真家【過去そして現在について】

Artist photographer

藤崎健太郎
Kentaro Fujisaki

刺青写真家

10代から音楽に打ち込み活動するも、20歳の頃に組んでいたバンドを解散させてしまったことをきっかけに写真の世界へと入っていく。日本と海外を行き来しながら自身の表現方法を模索し現在の活動に至る。

今では刺青写真家としての知名度も確立し、国内外からファンを獲得している。YouTubeの発信や刺青写真のイメージからは想像もできない彼の「美しいものに触れたい」という想いの根源について探っていきたい。

藤崎健太郎  子どもの頃から現在に至るまで

音楽と写真の世界を行き来するように生きてきました。

子どもの頃は友達と過ごすよりも、ひとりでぬいぐるみと遊ぶ時間が好きでした。当時から集団や組織的なものに対する不信感があったのでしょうか。地元の徳島の高校は不登校のため論文で京都の大学に入学し、授業よりも筋ジストロフィーという難病の方の介護や、自閉症のおじさんの銭湯への付き添いの仕事に熱中する学生でした。

音楽から写真へ

昔から音楽が好きで楽器を演奏していました。

20歳の頃に組んだバンドを自分の言動で解散させてしまい、心の空白を埋めるように祖父の形見の一眼レフで写真を撮り始めました。ある日、コダックのTRI-X(トライエックス)というモノクロフィルムで撮影した自分の写真を見たとき、音楽から得られる衝動を写真で再現できることに気がついて、音楽と写真がひとつにつながるような衝撃を感じました。

そして東南アジアで撮影したフィルムを日本の暗室で現像する生活を繰り返しながら、24歳のときに1年間バンコクへ渡ってスラムとニューハーフを撮影しました。

2006年のタイ軍事クーデターでは町に戦車が現れて驚きましたが、ゲイの軍人と仲良くなってミャンマー近くのシンガポール軍基地に滞在させてもらったこともあります。日本ではあり得ない展開かもしれません。

藤崎健太郎,東南アジア,写真

 

帰国後、新たに加入したバンドで2度のオーストラリアツアーを経験するも2011年に脱退してからは楽器を手放して写真と映像を撮り続けています。バンビさんという友達の刺青を撮らせてもらったことがきっかけで未来への扉が開いたようです。

2017年の刺青愛好会との出会い、世界的な女性彫師・初代彫蓮さんの20周年作品集制作と写真展への参加、刺青愛好会で仲良くなった翔くんのお誘いで実現した長野県の信州彫英さんとのパリへの旅、日本唯一のタトゥーコンベンションであるKING OF TATTOOの撮影などを経験させてもらいながら今に至ります。

たくさんの出会いに感謝しています。コロナ禍を好機ととらえて2021年に株式会社を設立しました。

刺青愛好会について


刺青愛好会は今では日本最大の刺青愛好家の団体でありながらも2017年の時点では発足したばかりでした。

現在はYouTuberや海外メディアからの取材がありますが、当時から刺青愛好会を撮影しているのは自分ひとりでした。写真や映像を発信していくという概念も抽象的でした。

日本の刺青を牽引してこられた李烈火さんに「私たちを撮ってください」と紹介して頂いた初めての撮影は緊張しましたが、中に入ってみると温かくて、会長の根本さんとともに発信を重ねる度に知名度が上がり参加者も増えていきました。

初めはひとりで来られた方も刺青を通して仲間ができ、交流が深まることで心安らぐ不思議な空間が生まれています。そのような方々の笑顔を見るのは嬉しいですし、少しでも刺青に興味のある方はぜひ来場して本物に触れてください。

刹那であり、リアルに生きる証であるTATTOO(タトゥー)

刺青は死んだら灰になる刹那的な作品です。

だからこそ愛好家の方々の撮られたいという意志と、自分自身が美しいものを撮りたいという意志が合わさるときに大きな力が生まれています。

そしてすべての刺青は彫師とお客様との信頼関係によって生み出されています。作品の背後に存在する彫師について意識すると、刺青の見え方も深まります。

無条件に刺青を否定する人は刺青のことをよく知らず、知りたくもないのでしょう。知らないものや異質なものを排除する傾向は島国の日本で強まっているようです。

イギリスの王族が日本の刺青に魅せられて彫りに来ていた時代があること、その技術がイギリスからアメリカに伝わったこと、刺青大臣と呼ばれた小泉純一郎さんの祖父のことなど、「日本の刺青と英国王室(明治期から第一次世界大戦まで)小山騰 著 」という本を1冊読むだけで先入観が崩れ落ちる体験ができるはずです。この本はきっとあなたの町の図書館にも所蔵されています。差別や偏見は自身の心の中にあったことに気づけるかもしれません。

ARTとしての刺青、海外との評価のギャップ

肌の上の絵を優れた芸術作品と見るか、反社会の象徴と見るか、角度によってこれほど印象が変化するものは他にないように思います。

縄文時代から続く伝統文化であるにも関わらず、賛否両論を巻き起こしてきた日本の刺青が海外からは絶賛されており、美しい作品を肌に刻むためにたくさんの外国人が日本を訪れています。そのような国内外の評価の非対称性すらも刺青の魅力であると感じます。19世紀の浮世絵がゴッホやモネ、ピカソに影響を与えて芸術が開花した現象、それが今まさに目の前で起こっているのです。

撮り続けながら思うこと

ひとつの物事を追求することはときに視野を狭くするかもしれませんが、圧倒的な技術や美しさは場所の概念を破壊して私たちを広い世界に導いてくれると信じています。

刺青の撮影を通してたくさんの人に出会い友達ができました。これからの出会いも楽しみにしています。

藤崎健太郎